【成功哲学】メスト・エジル自伝
メスト・エジルというサッカー選手をご存じでしょうか。
元ドイツ代表で2014年W杯優勝の中心選手であり、かつてレアルマドリードにも所属し、現在はイングランドの名門アーセナルに所属する一流プレイヤーの自伝です。
サッカーファンなら、楽しめること間違いなしの本書。
天才プレイヤーの活躍の裏側や苦悩を知ることができますし、なにより、彼の成功の要因を学ぶことができます。
・貧困の幼少期
・エジルの成功の哲学
・大成しなかった天才
・感想
・貧困の幼少期
エジルはドイツで生まれましたが、トルコ移民3世で、ドイツとトルコの2つの国籍を持っています。サッカーでは、生まれ育ったドイツ代表を選択し、W杯優勝に貢献しました。
移民3世だったこともあり、幼少期は貧しく、外国人移民ばかりが住む地域で育ちました。そのため、彼は6歳ぐらいまでドイツ語が話せませんでした。
アパートはボロボロで治安もあまりよくない環境。両親は働きづめでしたが、良い家族と友人に囲まれていたようです。
サッカーでは、地元の小さなサッカークラブで活躍し、天才として有名だったそうです。
小さなクラブに所属しながら、地元で一番大きなクラブであるシャルケ04(かつて内田篤人選手も所属)に入団しようとテストを受けます。
テストで十分活躍したにもかかわらず、落とされ続けます。4度も。
彼は、このことを人種差別だったととらえているようです。
そのため、しばらくは小さなクラブで活動を続けます。
中学生になると、学校がシャルケのスタジアムの傍だったこともあり、学校の練習はシャルケユースチームのコーチ、ノルベルト・エルゲルトが指導していました。
エルゲルトは、誠実で公平な人物で、エジルの才能をすぐに見抜き、シャルケ加入を打診します。
エジルは過去の経緯から、入団を渋りますが、エルゲルトの懸命な説得により、彼を信用しシャルケユースチームに加入します。
後にエジルはエルゲルトのことを、恩師として慕うことになります。
・エジルの成功の哲学
シャルケに加入したエジルは、恵まれた環境で練習し、エルゲルトに指導の下さらに能力を磨きます。
このときエルゲルトから、サッカーのスキルだけでなく、精神的なことを多く教わります。
その中で印象的だったものをいくつかご紹介します。
「たとえ両手を伸ばして星をつかもうとするときも、両足はちゃんと地につけておけ」
「自分に酔うのではなく、能力を正確に見極めなければならない」
「成功の鍵はゆっくり先を急ぐことだ」
このようなエルゲルトの指導により、彼は自分の実力を客観的に捉え、次のステップに行くにはどんなことが必要かを正しく理解していました。
天才として有名だったため、ユース時代から彼のもとには、数多くの金銭的に魅力的なオファーがありました。普通の若者なら目先の成功に飛びつくところですが、
エジルはそういった目先のものに惑わされず、遠くにある「世界一の選手」という目標のために今何が必要かを考え、数々のオファーを断ります。
10代のころから、自分に必要なのは、お金や名声ではなく、安心して練習できる環境や、十分な試合出場時間だと理解していたのです。
この気質は、彼が一流プレイヤーになった時にも彼自身を支えました。
世界トップの環境でプレーする選手には、メディアからの過激な批判がつきものです。過度なプレッシャーにより潰れていく選手は数多くいます。
しかし、エジルは周囲の声に惑わされず、自分を評価することを心得ていたので、安定した精神状態でプレーをすることができたのです。
・大成しなかった天才
財前 宣之というサッカー選手をご存じでしょうか、あの中田英寿を同世代で、中田以上の才能とされ、中田が憧れていた天才です。
しかし彼は、中田がヨーロッパの舞台で活躍したのとは対照的に、主にJリーグのチームに所属し、日本代表に選ばれることなく引退しています。
それでも十分すごいことなのですが、持っていた才能を考えると物足りないと考える人が多いようです。
財前は、10代の頃から有名で、各年代の代表として活躍、イタリアの名門ラツィオに留学。その後日本でプロとして試合出場することなく、スペイン1部リーグのチームに移籍します。
誰もが羨むスターへの道を駆け上がったかのように見えた財前ですが、スペインで苦しむことになりました。
彼はテクニックは十分でした。しかしプロとしてのフィジカルや経験が不足していたのです。
ケガやジャパンマネー目当てだったチーム環境など不運な要素も影響し、彼は満足のいく出場機会が得られずに、早々と日本へ帰国することとなります。
日本に帰国しても、ケガに苦しみながら選手生活を続けることになりました。
彼はエジルとは対照的に、成功を急ぎすぎたのです。
現在はサッカーの指導者として活躍。彼の貴重な経験は、多くの選手の助けとなっているでしょう。
・感想
「成功の鍵はゆっくり先を急ぐことだ」
とてもいい言葉だと思います。
目標を一気に達成しようとして失敗したり、逆に目標のレベルが高すぎて気が遠くなり、諦めそうになったりすることがあると思います。
そんな時は、自分の現在地と目標地点、その間にどんなステップが何段あるかを冷静に分析することが重要だと感じました。
本書では、他にもW杯のエピソードや、モウリーニョ対グアルディオラとして白熱したクラシコの裏側もエジル目線で書かれています。
興味深かったのは、シャルケ→ブレーメンやレアル→アーセナルへの移籍の真相です。
実力とは関係ない理由で移籍をさせられたり、妨害された話が書かれています。
エジルほどの才能と実力がありながら、結局は雇われている身で、自分にはコントロールできないところで自分の選手キャリアが左右されてしまう。そこは一般のサラリーマンと同じですね。
理不尽なことがありながらも、自分にできることに集中する彼の姿は、見習うべきところだと感じました。
サッカーファンなら楽しめること間違いなしの一冊です。